薬剤師の1割は、医薬品関係の企業で働いている。薬局・病院の経験しかない人が、製薬・治験・卸・行政へ移るときの入口を表で比べる
厚生労働省の令和6年の統計では、薬剤師は329,045人。そのうち薬局で働く人が60.0%、病院・診療所が19.2%で、医薬品関係の企業で働く人は10.4%、行政機関や保健衛生施設は2.1%です。
薬局や病院の経験しかないと、企業や行政は遠く感じるかもしれません。ただ、職場によって未経験者の入り方はかなり違います。この記事では、まず数字で職場の広がりを確かめ、次に職場ごとの入口を表で比べ、最後に臨床の経験をどう伝えるかを整理します。
薬局・病院の外では、どこで何人が働いている?
令和6年末時点の内訳は、次のとおりです。
- 医薬品の製造販売業・製造業(製薬会社や工場):24,102人(7.3%)
- 店舗販売業(ドラッグストアなど):5,090人(1.5%)
- 卸売販売業(医薬品卸):4,959人(1.5%)
- 大学:5,011人(1.5%)
- 衛生行政機関・保健衛生施設:6,906人(2.1%)
製薬会社や工場で働く薬剤師は、病院・診療所で働く人の約4割にあたります。ドラッグストアは調剤と近い仕事も多いので、この記事では、仕事の中身が大きく変わる製薬・治験・卸・行政を中心に見ていきます。
広告
職場ごとの入口を、表で比べる
| 職場 | 主な仕事 | 薬剤師資格の使われ方 | 未経験からの入口の目安 | 確かめたいこと |
|---|---|---|---|---|
| 製薬会社(製造販売業) | 安全性情報(PV)、学術・医薬品情報、薬事、品質保証 | 総括製造販売責任者など、法律で薬剤師が要る役割がある | 中途は経験者採用が中心になりやすい。PVや医薬品情報は臨床経験が評価されることも | 英語の文書の量、勤務地 |
| 工場(製造業) | 製造管理、品質管理、試験 | 製造所の管理者に薬剤師が求められる場合がある | 試験や品質管理は、未経験の募集が出ることもある | 交代勤務の有無、工場の場所 |
| 治験(CRO・SMO) | モニター(CRA)、治験コーディネーター(CRC) | 必須でない仕事も多いが、評価されやすい | 研修から育てる前提の募集が見られる | 出張の頻度、担当施設の数 |
| 医薬品卸 | 営業所の管理薬剤師、医薬品情報 | 営業所の管理者は薬剤師 | 調剤経験者を対象にした募集が多い | 一人配置かどうか、休日 |
| 行政(都道府県・市) | 薬事の監視指導、保健所、衛生研究所 | 「薬剤師」の採用区分で採る自治体が多い | 採用試験で入る。年齢の上限は自治体ごとに違う | 試験の時期、受験できる年齢 |
入口の目安は、求人の出方の傾向です。同じ職種でも会社や時期で変わるので、気になる職場は個別の求人で確かめてください。
臨床の経験は、企業で何として見られる?
企業や行政の採用担当者は、「臨床で何を判断してきたか」を知りたがります。薬局や病院の仕事は、次のように言い換えられます。
- 疑義照会:処方の妥当性を確かめ、医師に根拠を示して確認した経験。安全性情報や医薬品情報の仕事に近い
- 副作用への対応:患者さんの訴えから副作用を疑い、記録し、報告につなげた経験。PVの入口として話しやすい
- 医薬品情報の調べもの:添付文書やインタビューフォームを読み、医療者に回答した経験
- 治験薬の管理:病院で治験薬の管理や説明に関わった経験は、CRCやCRAの応募で具体的に話せる
「月に○件の疑義照会」「年に○件の副作用報告」のように、件数で書ける経験を職務経歴書に入れると伝わりやすくなります。書き方は「調剤業務全般」の一行で終わらせないも参考にしてください。

「未経験可」の企業求人で、確かめたいことは?
企業の求人では、薬局や病院とは違う条件が書かれていることがあります。応募の前に、次の点を確かめておくと、入社後のずれを減らせます。
- 研修の期間と中身:入社後に何か月の研修があり、いつから一人で担当するか
- 配属と転勤:本社か支店か工場か。全国転勤の可能性があるか
- 英語:社内外の文書をどれくらい英語で読み書きするか
- 給与の内訳:薬局や病院でついていた薬剤師手当や当直手当がなくなる分を、基本給や賞与で補えるか
- 薬剤師免許の扱い:免許手当があるか、資格が必須か歓迎か
面接で職場の種類を変える理由をどう話すかは、「なぜ病院から薬局へ?」薬剤師の面接で、職場の種類を変える理由を伝える文例6つの考え方が使えます。
広告
企業に移ったあと、臨床に戻る道は残る
薬剤師の免許は、企業や行政で働いても失効しません。臨床に戻ることもできます。
ただ、調剤や病棟業務から離れていた期間は、薬局や病院からはブランクと同じように見られることがあります。戻る可能性があるなら、勉強会への参加や、休日の非常勤など、臨床との接点を細く残しておく方法もあります。戻るときの準備はブランク明けの薬剤師が、復職の12週間前から始めることの順番が参考になります。
今日やるとしたら
これまでの仕事から、件数や頻度で書ける経験を3つ書き出してください。疑義照会、副作用の対応、医薬品情報の問い合わせなど、どれでもかまいません。
その3つが、表のどの職場の仕事に近いかを見比べると、最初に調べる職場が決まります。
よくある質問
- 企業に移ると、薬剤師の免許は使わなくなりますか?
- 職場と仕事によります。医薬品の製造販売業の総括製造販売責任者や、医薬品卸の営業所の管理者など、法律で薬剤師を置くことが決まっている役割があります。一方で、治験のモニター(CRA)のように、資格が必須ではない仕事もあります。求人票で「薬剤師免許必須」か「歓迎」かを見ると、資格がどう使われるかの目安になります。
- 企業から、また薬局や病院に戻ることはできますか?
- 免許は企業で働いても失効しないので、戻ることはできます。ただ、調剤や病棟業務から離れていた期間は、職場からはブランクと同じように見られることがあります。戻るときの準備は、ブランク明けの復職と同じ順番で考えると進めやすくなります。
- 行政(公務員)の薬剤師になるには、何から調べればいいですか?
- 都道府県や市の職員採用のページで、「薬剤師」や「薬学」の採用区分を探してください。試験の時期、受験できる年齢の上限、社会人経験者の枠があるかは自治体によって違います。配属先は保健所、薬務課、衛生研究所、病院などさまざまです。
この記事に関係する職業
仕事内容・平均年収・求人倍率は、それぞれの職業ページにまとめています。